犬の全身麻酔について

12月に入り、寒さも本格的になってきましたね。飼い主様の体調はいかがでしょうか?

ワンちゃんやネコちゃんの中にも寒さの影響もあり、体調を崩す子が多く見受けられるようになりました。お洋服を着させてあげたり、おうちの中を温かくしてあげるなど、なるべく体が冷えないようにしてあげることで予防や対策の1つになればいいなと思います。なにか心配なことがあるようでしたら動物病院を受診されるとよいかと思います。

 

 さて、今月のテーマとしてあげています「全身麻酔のリスク」についてですが、私たち人間においても手術の時など、全身麻酔をかける機会があるかと思います。ワンちゃんやネコちゃんでも全身麻酔をかけて行う手術や治療は存在します。代表的なものとして去勢手術と避妊手術があります。これらの手術を行わないことで将来的になってしまう病気がいくつかあるので、去勢・避妊手術はやっておかれるといいかなと思います。さらに、ワンちゃんやネコちゃんでは、人間では必要としない時でも全身麻酔が必要になることがあります。例えば、歯についた歯石を取るスケーリングでは、人間のように長い時間口を開けてじっとしていられないため全身麻酔をかけて行っています。また、癌の治療法の1つとして挙げられる放射線治療やCT、MRI検査といった画像検査では、長い時間同じ姿勢でじっとしていなければならないため、全身麻酔をかけて行うことが基本となります。そんな全身麻酔ですが、私たちでも自分が全身麻酔をかけられるとなると不安な思いになるかと思います。人間以上に全身麻酔をかける可能性が多いワンちゃん・ネコちゃんにおいても全身麻酔をかけるうえで心配となるのが副作用やリスクだと思います。今日はそんな副作用やリスクのお話をしつつ、それらを少なくするための検査、全身麻酔中の管理についてお話していこうと思います。

 

○もくじ

  1. 副作用とリスクは?
  2. 麻酔をかけるためにどんな検査があるの?
  3. 麻酔をかけている時はどんなことをしているの?
  4. まとめ

 

1.副作用とリスク

 ワンちゃんの麻酔が原因で死亡してしまう割合は約0.17~0.65%であると報告されており、特に手術が終わって3時間以内で一番多く発生していることが明らかになっています。高い数値ではありませんが、人間での麻酔が原因で死亡してしまう割合(0.01~0.05%)に比べると高い数値になっています。また、代表的な副作用として内蔵機能の低下、肝機能の低下、血圧の低下、心不全、呼吸困難が挙げられます。麻酔薬の使用量や種類を誤ってしまうと、これらの副作用が強く出てしまいます。さらに、最悪の場合、全身麻酔によって死亡するケースもあります。そして気を付けたいワンちゃんの特徴として、犬種(短頭種、小型犬)や年齢(10歳以上)、呼吸器や心臓に持病がある子が挙げられ、全身麻酔のリスクが高くなってしまう場合があります。

 

2.麻酔前検査

 ワンちゃんが全身麻酔をかけられる状態であるかどうかを検査することは、全身麻酔をかけるうえで大切なことであり、検査の結果がよくない子や、健康状態のよくない子では麻酔による不運な事故が起こってしまう可能性が高くなってしまうため、手術等を延期することもあります。当院では、手術前に飼い主様とお話を行い、ワンちゃんの今日の体調を確認し、手術の方法や麻酔についてのお話をさせていただいています。また、麻酔前の検査として血液検査をオススメしています。血液検査を行い、麻酔の副作用となる肝臓や腎臓などが悪くなっていないかをあらかじめ評価することができます。その他にも、心臓や肺の状況を評価するのに胸のレントゲンを撮ることがあります。心臓や肺が悪くなっていても麻酔をかけるうえではリスクとなってしまうことがあるため、胸のレントゲンも希望される際は言っていただけたらと思います。このように麻酔をかけるために、いくつかの検査を行い、麻酔がかけられると判断した子については全身麻酔をかけて手術等を行っていきます。

 

3.麻酔中の管理

 前項で麻酔前検査についてお話をしました。では、実際に麻酔中はどのようなことに注意しているのかお話します。全身麻酔をかけている最中は、呼吸がちゃんとできているか、心臓がしっかり動いているか、全身に酸素が行き渡っているか、機械を使って評価しています。また、万が一手術中に何かが起こった時には、すぐに対応できるよう、手術を行っているスタッフ以外にもスタッフが待機しています。

無事手術が終わり、麻酔を切った後もワンちゃんがしっかりするまでは呼吸状態や心臓の動きを評価しています。他にも痛みがないか、体は震えていないかなど様々なことをチェックしています。

 

4.まとめ

 今回は全身麻酔のリスクについてお話しました。普段、手術等は飼い主様の見ていないところで行っているため、不安なところもあったかと思います。特に全身麻酔は、検査をしっかり行っても亡くなってしまうこともあるものです。しかし、そのようなことが起こらないように手術前、手術中、手術後としっかりチェックをしていることがわかっていただけたらと思います。怖いイメージのある全身麻酔ですが、しっかりとした知識や医療行為を行うことで副作用も少なく手術等を行うことができます。