犬の椎間板ヘルニアについて

○犬の椎間板ヘルニア

 

 

暑ーい夏が、終わり、冷たい風が、吹き始め、良い季節になりましたね。と言いたいところですが、この冷たい風が、吹き始めると増えてくる病気が、あります。

それが、腰痛、首痛、椎間板ヘルニアです。

 

今回は、この病気を紹介しましょう。

 

○犬のヘルニアとは?

○症状は?

○検査は?

○治療は?

○鍼治療は?

○こんな病気も要注意?

 

○犬のヘルニアとは?

 

ヘルニアと聞くと椎間板ヘルニアの事だと思う方が、多いかもしれません。

ヘルニアというのは、体のある器官が、本来あるべき場所から、はみ出している状態のことをいいます。

いわゆるデベソは、お臍(おへそ)からお腹の中の脂肪や腸が、出ている場合で、これを「臍(さい)ヘルニア」といいます。

股の鼠径部(そけいぶ)というところから腸が、出てしまうことを鼠径(そけい)ヘルニアといいます。

というわけで、椎間板ヘルニアとは、首又は背中の骨と骨の間にある椎間板が、飛び出して脊髄という神経を圧迫してしまう病気です。そのことによって、痛みや麻痺を起こします。

 

犬の椎間板ヘルニアの症状は、痛める場所や程度によって異なりますが、首(頸椎)の脊髄を圧迫した場合は、主に前足に麻痺が起こり、これを頸椎ヘルニアといいます。腰(腰椎)の脊髄を圧迫した場合、主に後ろ足の麻痺が起こり、これを腰椎ヘルニアといいます。

 

犬の椎間板ヘルニアを起こしやすい種類は、なんといってもダックスフンドですが、その他、ウェルシュコーギー、ビーグル、など、短足胴長の犬種に多いです。

最近では、チワワ、パピヨン、フレンチブルドックなども、椎間板ヘルニア又は、首痛、腰痛の症状で来院することが、多くなっています。

 

○症状は?

 

こんな症状が、おこったら犬のヘルニアを疑って!

 

飼い主さんが、気付きやすい症状としては、

 

突然、後ろ足で、立てなくなってしまう。

歩くことを嫌がるようになってきた。

首や背中を触ると痛がる。

背中を丸めて歩く。

ソファーなどに飛び乗らなくなった。

動きが、鈍い。

足に麻痺があり、ビッコをひく。

足先が、ひっくり返ってしまう。(ナックリング)

オシッコを漏らしてしまう。

便の切れが悪い。

これらの症状が、いくつかみられたら、

動物病院に相談してください。

 

○検査は?

 

レントゲン検査だけでは、場所や状態をはっきり断言することが難しく、確定診断には、MRI  検査が、必要となります。ただ、ワンちゃんの場合には、MRI検査のために全身麻酔をかける必要があります。

手術をする場合には、患部を特定する必要があるので、MRIは、必須になります。

 

当病院でおこなっている鍼治療の場合は、直接患部に鍼は、刺しません。患部と思われる部位とは、離れた場所のツボに鍼を刺します。よって、飼い主様さえ了承いただければ、MRI検査の必要なく治療を行えます。

 

○治療は?

 

治療としては、軽度の場合は、痛み止め(消炎鎮痛剤)を飲んで様子をみたり、重度の場合は、外科手術を行います。高齢だったり、麻酔、手術が、心配だ。という方には、鍼治療をお勧めしています。

 

○鍼治療とは?

 

先程もお話したように当病院では、この犬の椎間板ヘルニアに対して、鍼治療を行なっています。

週に一回の通院で、一回30分くらいの治療になります。グレード(症状の重さ)によって、異なり、個体差もありますが、3〜4回で、反応が出てくれる子が多いです。

重症の場合は、3〜6か月かかって、良くなった子もいます。

副作用は、ほとんどありません。

残念ながら、回復しきれなかったワンちゃんもいますが、70%以上のワンちゃんが、回復してくれています。

 

後ろ足が、麻痺して、まったく歩けなかったワンちゃんが、一回の鍼治療で、スタスタ歩けるようになった例もありました。これには、私もびっくりしました。飼い主さんも、驚いていましたが、たいへん喜んでいました。

先日は、四つの足全てが、麻痺をしていて、全く歩けなかったワンちゃんが、7か月かかって、スタスタ歩くようになった動画を見せてもらいました。この方もたいへん喜んでいました。

 

首痛、腰痛も最近増えてきています。

痛みの強いケースは、レーザー治療や、痛み止めの注射や飲み薬で、対応します。

私の感覚では、痛みには、レーザー治療やオゾン療法、ステロイドや非ステロイドの消炎鎮痛剤の治療が、効果があり、麻痺の場合には、鍼治療やオゾン療法、場合によっては、消炎鎮痛剤の飲み薬を併用することによって、良い効果が、見られるような気がします。

 

 

○予防法は?

 

まれに若いワンちゃんでも、発症する事は、ありますが、なんといっても7歳以上の中高齢を迎えた子達に多いです。人間と一緒ですね。それから、肥満も大敵です。

7歳を過ぎてきたら、以下の事柄に注意をしてあげてください。

普段から、適度な運動とバランスの良い食事を与えること。

冷え過ぎることも、原因のひとつとなります。暑い季節には、エアコンでの冷やし過ぎに注意して、寒くなってから、急に冷え込む日などは、暖かくしてあげてください。

抱き方や普段の生活にも、注意が必要です。

脇の下に手を入れて、抱き上げたり、お腹を上にした赤ちゃん抱っこは、腰に負担が、かかるので、やらない方が、良いでしょう。

下から体全体を包み込むように体全体を持ち上げてあげて抱き上げると腰への負担が、かかりにくくなります。

首や腰を痛がる。ビッコをひく。などの症状をみかけたら、獣医さんに相談しましょう。

 

 

○犬の椎間板ヘルニアと同じような症状を呈する病気

 

ここでは、犬の椎間板ヘルニアと同じような症状を呈する病気をいくつか紹介しましょう。

 

進行性脊髄軟化症

 

変性性脊髄症

 

変形性脊椎症

 

馬尾症侯郡

 

脊髄空洞症

 

○犬の進行性脊髄軟化症

 

進行性脊髄軟化症とは、突然起こる重度の脊髄障害で、進行性の脊髄壊死を起こします。たいへん強い痛みを伴います。

椎間板ヘルニアなどによる脊髄の障害部分から、脊髄の壊死が、進行していき、強い痛みや麻痺により呼吸ができなくなって、亡くなってしまいます。

 

通常の椎間板ヘルニアでは、亡くなることは、ほとんどありませんが、この病気の場合は、注意が必要です。

最重度(グレード5)の椎間板ヘルニアを患った犬の1割ほどで、発症が、みられます。

 

症状としては、進行性の麻痺、元気、食欲がない。発熱、激しい痛み。黄色味の強い尿

などです。

 

原因は、はっきりしておらず、予防法もありません。

治療もこれといった治療法もなく、絶対安静にして、痛み止めを使い、痛みと麻痺の進行を止めてあげる。ことになります。

うまく痛みと麻痺を止めることができれば、命を取り留めることが、できますが、後ろ足の麻痺が、残ってしまうことも多いです。

この病気は、手術の適応ではありません。

 

 

○犬の変性性脊髄症

 

この病気は、あまり強い痛みを伴わず、ゆっくりと麻痺が、進行する脊髄の病気です。

 

原因としては、遺伝的なものとされており、

ウェルシュコーギー、シェルティー、シェパードなどに多くみられます。

 

症状としては、以下の4つのステージに分けられます。

ステージ1

後ろ足のふらつきや、びっこ(跛行)が、みられる。まだ、歩行は、可能。

 

ステージ2

両方の後ろ足の麻痺が、進行して、しっかり歩けなくなってくる。

前足は、正常。

 

ステージ3

前足にもふらつきが、みられる。まだ、歩行は、可能。腰や下半身の筋肉が、萎縮してくる。

 

ステージ4

四つ足とも麻痺してしまい歩行が、できなくなる。呼吸困難、発声障害、食べ物を飲み込めなくなってくる。全身の筋肉が、萎縮してしまう。

 

人間の難病指定である筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気に似ています。

 

原因も不明で、生きている間の確定診断も難しいです。さらにこの病気に対する治療法もありません。

 

 

○犬の変形性脊椎症

 

いわゆる背骨である脊椎のひとつひとつの間や、下側に骨の棘(とげのようなもの)が、できたり、骨同士が繋がって橋のような成分が、できてしまう病気です。

そのことにより脊椎の可動域が、狭くなり、痛みが出たり、後ろ足の麻痺がでたりします。

 

原因は、過度な運動や、免疫異常、高齢のために起こります。

 

この病気は、レントゲン検査で、見つけることができます。

 

治療としては、痛み止めの飲み薬を飲んだり、鍼治療をして、痛みを緩和してあげる治療になります。

当病院では、この病気も鍼治療で治療しています。

高齢が原因で、起こっているので、回復には、時間がかかります。これも、残念ながら元通りに回復しきれないケースもありますが、痛みを緩和してあげる効果は、あります。

 

 

○犬の馬尾症候群

 

馬尾症候群とは、腰椎から仙椎の中を通っている馬尾神経が、何らかの原因で、圧迫され、障害を受けることにより起こる病気です。

 

障害を受ける場所によって、症状は様々ですが、後ろ足が、ふらついたり、爪先を引きずったり、腰を曲げ伸ばしするような運動を嫌がります。しっぽを挙げる時に痛みがでたり、オシッコを漏らしたりもします。

 

MRI検査で、診断します。

治療としては、痛み止めの飲み薬を飲んだり、手術をする場合もあります。

当病院では、鍼治療で治療しています。

高齢が原因で、起こっているので、回復には、時間がかかります。残念ながら、回復しきれないケースもありますが、進行を遅らせる効果は、あると思います。

 

○犬の脊椎空洞症

 

脊椎空洞症とは、脊髄内に液体が貯留する空洞を形成することで、脊髄障害を起こす病気です。

先天的なものと後天的なものに分けられ、先天的なものは、奇形が多く、後天的なものは、脊髄の腫瘍や炎症から起こることが多いです。

 

症状は、脊髄の圧迫の程度によって、無症状のものから、重い神経症状が、出るものまであります。

首の痛み、四肢のしびれ、足の開脚などがあり、重症化すると体全体が、麻痺してたてなくなったり、痙攣発作を起こしたり、呼吸をする筋肉に麻痺が、起こると呼吸が、停止してしまうケースもあります。

MRI検査または、CT検査で、確定診断されます。

キャバリアキングチャールズスパニエル、チワワ、ヨークシャーテリア、ポメラニアンなどに多くみられます。

 

予防は、困難な病気です。

治療も、脊髄内の圧力や炎症を抑える薬をつかったり、手術もありますが、重症化してから診断が、つく場合が多いため、治療成績は、あまり良くありません。

 

○まとめ

 

椎間板ヘルニアを含めて、脊椎疾患は、これからの寒い季節に増えてきます。

急に痛みが、出てしまうことが多いので、「予防法は?」のところに書いてあることに注意して、あげてください。

気になることがあったら、なるべく早めに、獣医さんへ相談しましょう。