2020年12月

犬の全身麻酔について

12月に入り、寒さも本格的になってきましたね。飼い主様の体調はいかがでしょうか?

ワンちゃんやネコちゃんの中にも寒さの影響もあり、体調を崩す子が多く見受けられるようになりました。お洋服を着させてあげたり、おうちの中を温かくしてあげるなど、なるべく体が冷えないようにしてあげることで予防や対策の1つになればいいなと思います。なにか心配なことがあるようでしたら動物病院を受診されるとよいかと思います。

 

 さて、今月のテーマとしてあげています「全身麻酔のリスク」についてですが、私たち人間においても手術の時など、全身麻酔をかける機会があるかと思います。ワンちゃんやネコちゃんでも全身麻酔をかけて行う手術や治療は存在します。代表的なものとして去勢手術と避妊手術があります。これらの手術を行わないことで将来的になってしまう病気がいくつかあるので、去勢・避妊手術はやっておかれるといいかなと思います。さらに、ワンちゃんやネコちゃんでは、人間では必要としない時でも全身麻酔が必要になることがあります。例えば、歯についた歯石を取るスケーリングでは、人間のように長い時間口を開けてじっとしていられないため全身麻酔をかけて行っています。また、癌の治療法の1つとして挙げられる放射線治療やCT、MRI検査といった画像検査では、長い時間同じ姿勢でじっとしていなければならないため、全身麻酔をかけて行うことが基本となります。そんな全身麻酔ですが、私たちでも自分が全身麻酔をかけられるとなると不安な思いになるかと思います。人間以上に全身麻酔をかける可能性が多いワンちゃん・ネコちゃんにおいても全身麻酔をかけるうえで心配となるのが副作用やリスクだと思います。今日はそんな副作用やリスクのお話をしつつ、それらを少なくするための検査、全身麻酔中の管理についてお話していこうと思います。

 

○もくじ

  1. 副作用とリスクは?
  2. 麻酔をかけるためにどんな検査があるの?
  3. 麻酔をかけている時はどんなことをしているの?
  4. まとめ

 

1.副作用とリスク

 ワンちゃんの麻酔が原因で死亡してしまう割合は約0.17~0.65%であると報告されており、特に手術が終わって3時間以内で一番多く発生していることが明らかになっています。高い数値ではありませんが、人間での麻酔が原因で死亡してしまう割合(0.01~0.05%)に比べると高い数値になっています。また、代表的な副作用として内蔵機能の低下、肝機能の低下、血圧の低下、心不全、呼吸困難が挙げられます。麻酔薬の使用量や種類を誤ってしまうと、これらの副作用が強く出てしまいます。さらに、最悪の場合、全身麻酔によって死亡するケースもあります。そして気を付けたいワンちゃんの特徴として、犬種(短頭種、小型犬)や年齢(10歳以上)、呼吸器や心臓に持病がある子が挙げられ、全身麻酔のリスクが高くなってしまう場合があります。

 

2.麻酔前検査

 ワンちゃんが全身麻酔をかけられる状態であるかどうかを検査することは、全身麻酔をかけるうえで大切なことであり、検査の結果がよくない子や、健康状態のよくない子では麻酔による不運な事故が起こってしまう可能性が高くなってしまうため、手術等を延期することもあります。当院では、手術前に飼い主様とお話を行い、ワンちゃんの今日の体調を確認し、手術の方法や麻酔についてのお話をさせていただいています。また、麻酔前の検査として血液検査をオススメしています。血液検査を行い、麻酔の副作用となる肝臓や腎臓などが悪くなっていないかをあらかじめ評価することができます。その他にも、心臓や肺の状況を評価するのに胸のレントゲンを撮ることがあります。心臓や肺が悪くなっていても麻酔をかけるうえではリスクとなってしまうことがあるため、胸のレントゲンも希望される際は言っていただけたらと思います。このように麻酔をかけるために、いくつかの検査を行い、麻酔がかけられると判断した子については全身麻酔をかけて手術等を行っていきます。

 

3.麻酔中の管理

 前項で麻酔前検査についてお話をしました。では、実際に麻酔中はどのようなことに注意しているのかお話します。全身麻酔をかけている最中は、呼吸がちゃんとできているか、心臓がしっかり動いているか、全身に酸素が行き渡っているか、機械を使って評価しています。また、万が一手術中に何かが起こった時には、すぐに対応できるよう、手術を行っているスタッフ以外にもスタッフが待機しています。

無事手術が終わり、麻酔を切った後もワンちゃんがしっかりするまでは呼吸状態や心臓の動きを評価しています。他にも痛みがないか、体は震えていないかなど様々なことをチェックしています。

 

4.まとめ

 今回は全身麻酔のリスクについてお話しました。普段、手術等は飼い主様の見ていないところで行っているため、不安なところもあったかと思います。特に全身麻酔は、検査をしっかり行っても亡くなってしまうこともあるものです。しかし、そのようなことが起こらないように手術前、手術中、手術後としっかりチェックをしていることがわかっていただけたらと思います。怖いイメージのある全身麻酔ですが、しっかりとした知識や医療行為を行うことで副作用も少なく手術等を行うことができます。

腫瘍(癌)について②

○今回は、比較的多く見られる良性腫瘍をお話していきます。


比較的多く見られる良性腫瘍には、
 パピローマ、マイボーム腺腫、エプリス、
 肛門周囲腺腫などがあります。

パピローマとは?そして原因は?

まず パピローマですが、犬は、イボのできやすい動物です。
ある日、ワンちゃんを撫でていたら今まで何もなかったところに急にイボを発見したということは、よくあることです。初めて、イボを見つけた時は、多くの方が、驚いて診察に来られます。
皆さんは、パピローマウィルス(皮膚乳頭腫)と言う言葉を聞かれたことが、あるでしょうか?このイボは、そのパピローマウィルスが、原因で起こる病気です。
1センチ以下のイボについては、このパピローマウィルスに感染する事で、起こる良性腫瘍の可能性が、大きいです。
みるみる大きくなったり、出血したり、痛みが出たりしなければ、様子を見ていて大丈夫です。
パピローマウィルスは、数百種類の様々な型があります。
様子を見ていると消えてしまう物もありますが、高齢になってからできたものは、ワンちゃんの皮膚の抵抗力が、弱まって感染しているので、消えずに残ってしまうことが、多いです。
処置としては、手術をして取り除くしかありません。局所麻酔または、全身麻酔が、必要になります。
取り除いても、その場所または、近くの場所にまたできてしまうことは、良くありますので、かかりつけの獣医さんに相談してください。

人に感染することは?予防法は?

パピローマウィルスは、ウィルスによって起こる病気ですが、皮膚にイボができる他は、特に症状は、ありません。
犬から人に。または、人から犬に感染する事は、ないと言われていますので、安心してください。
特にこれといった予防法は、ありません。イボに気がついた時は、様子をみながら獣医さんに相談してみてください。


マイボーム腺腫?

続いてマイボーム腺腫について、説明します。
「ワンちゃんの瞼にポツンとイボのような物ができてしまった。」と驚いて来院される方が、よくいらっしゃいます。
「これは、マイボーム腺腫といって良性の腫瘍です。」と説明します。
マイボーム腺というのは、瞼の縁にぐるっとある細胞群をいいます。瞼の縁、まつ毛の毛穴に沿って、転々と存在しています。
マイボーム腺は、瞬きするたびに目の表面の油分を補って目の潤いを保つ役割を持っています。
油分を分泌する細胞には、良くある事ですが、この腺の出口が、詰まってしまうことによって、中に油分が、溜まってしまいイボのように膨らんでしまいます。この状態をマイボーム腺腫といいます。
人間のニキビと同じような物と思ってください。
あまり大きくならず、目の外側に膨らんでいる場合は、様子を見ていても良いと思いますが、瞼の内側や、瞬きするごとに眼の表面(角膜)をこするようだと手術をして、取り除いてあげることになります。


マイボーム腺腫の治療法は?予防法は?

治療法としては、手術になります。
目の周囲を手術しますので、全身麻酔が、必要になります。
マイボーム腺腫は、人間のニキビと同様に体質があり、繰り返しできてしまうワンちゃんも多いです。
残念ながらこれといった予防は、ありません。
たいへんですが、見つける度に対策する必要があります。
あくまでも体質ですが、日常の生活によってできやすい傾向もあるので、再発を繰り返す場合は、食事や体重管理などの見直しも検討すると良いでしょう。


ハグキにできるエプリスとは?

次にエプリスについてお話しましょう。
エプリスとは、口の中、主にハグキにできる腫瘍のひとつです。
犬では、比較的発生が多くみられます。
歯の周りで歯を支える靭帯から発生する歯肉の良性腫瘍です。
線維性、骨性、棘(きょく)細胞性などに分類されます。
犬で最も多く見られるものは、線維性エプリスです。
主な症状は、
歯肉に盛り上がったような物ができる。
口臭が、強くなる。
唾液に血が混じる。
食べにくそうにする。
などが、みられます。
7歳を超えて、高齢になってくると発生しやすいです。
それから、エプリスは、良性の腫瘍ではありますが、腫瘍の広がりや動きは、一般的な良性腫瘍よりも活発です。注意してください。

エプリスの原因、予防法、治療法は?

エプリスの原因については、はっきりわかっていません。
残念ながら、これといった予防法もありません。
エプリスの治療としては、転移が報告されていない良性の腫瘍なので、発生した場所で腫瘍を切除する事をお勧めします。
様子を見ていても良いとは、思いますが、似たような形を示す悪性の腫瘍で、扁平上皮癌や黒色肉腫(メラノーマ)という病気があります。
これらとの鑑別は、必要と思われます。


肛門周囲腺腫とは?

次に肛門周囲腺腫について、説明します。
これは、肛門周囲にある、肛門周囲腺が、腫瘍化したもので、良性の腫瘍に分類されます。
肛門周囲にできる腫瘍は、この腫瘍のことが、多いです。
腫瘍そのものは、痛みを起こすことはないので、気が付いたらできていたということが多いです。
先程も言ったように良性腫瘍に分類されますが、ゆるやかに大きくなっていくことが、あります。犬が、気にして舐めたり、腫瘍から出血したり、感染が、起こったりします。
腫瘍は、ひとつだけのこともあれば、いくつもできることもあります。

肛門周囲腺腫の原因は?

原因について、詳しくは、わかっていませんが、発生には、男性ホルモンが、影響しているようです。
そのため、去勢手術をしていない高齢のワンちゃんで、発生が多く見られ、雌ではまれです。

治療法は?

やはり手術で取り除くしかありません。
男性ホルモンが、影響しているので、同時に去勢手術も併せて行なうと、再発をかなり抑えることができます。
できれば、若いうちに去勢手術をしてしまえば、この病気にかかることは、ほとんどありません。
肛門周囲腺腫以外の悪性腫瘍もできている場合もあるので、取り除いた腫瘍は、病理検査を行うことをお勧めしています。


まとめ

今回は、比較的発生の多い良性腫瘍について、説明しました。
良性腫瘍の場合は、悪性腫瘍と違って、様子をみていても、すぐに命に関わるようなことは、ほとんどありません。
その点では、安心といえますが、良性とは、言っても、その場で大きくなっていくものもあるので、大きさには、注意しておいてください。
少しずつでも、大きくなっていくようなら、獣医さんに相談してください。
治療としては、手術をして、取り除く以外に良い方法が、ありません。
手術をするのなら、早い方が、良いと思います。
高齢だったり他の病気を併発している時は、麻酔を心配される方も多いと思います。
こんな時は、獣医さんと良く相談してください。